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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和26年(う)153号 判決

控訴人 被告人 宮崎忠二

弁護人 宮下輝雄

検察官 野見山倭関与

主文

原判決のうち被告人に関する部分を破棄する。

被告人を懲役八月に処する。

この裁判が確定した日から二年間右刑の執行を猶予する。

押収にかゝる杉角柱材二七二本(約四五石)及び杉板四一二枚(約六石)を没収する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

弁護人宮下輝雄の控訴趣意は、同弁護人が差し出した控訴趣意書に記載したとおりであつて、被告人に対する原判決の主刑の量定が不当に重過ぎるというのであるが、記録に現われた一切の事情を綜合して勘案すると、原判決の主刑の量定は必ずしも不当に重すぎるとは思われないので、論旨は理由がない。

次に、職権で調査するに、原判決はその挙示の証拠によつて、被告人は、原審相被告人笹岡康男、同松田登と共に、昭和二五年一一月三日頃、鹿児島市下荒田町春日旅館で、比村中と会合の上、比村において五十万円を出資し、被告人においてこれを資金として木材を北緯三〇度以南の南西諸島に密輸出して物々交換又は売買の方法によつて非鉄金属類三〇噸以上を入手して密輪入の上売却し、右笹岡及び松田において右行為に協力し、利益は右四人で分配すること等を相謀り、右謀議に基いて、被告人において、翌四日頃、同所で、比村より五十万円の交付を受けた上、右金員をもつて、同月一二日頃、宮崎県南那珂郡細田町大堂津の製材業松岡宗義方で、同人より杉材二〇〇石を代金二十一万円で買付の契約をし、内渡の杉材約五一石を右松岡方工場に集貨し、自己が傭船した第十八明石丸(約五〇噸)の船長平井友一に対し木材積載のため鹿児島港より廻航方を命じて同月二〇日早朝宮崎県日南市油津港に廻航させ、右松田において、被告人に同行して木材買付に協力し、笹岡において、木材積載のための右第十八明石丸の油津廻航に同乗し、もつて、被告人は、右笹岡、松田、比村等と共謀して、免許を受けないで右木材の輸出等をする目的でその予備をしたものであるという事実を認定し、関税法第八三条を適用して右集貨した木材約五一石のほか右第十八明石丸をも没収していることは判文上明らかである。

しかしながら、右のように無免許輸出をする目的で輸出向貨物を集貨し且輸出の用に供するための船舶を準備して無免許輸出の予備をした場合における右船舶は、右予備罪の用に供したものではなくして、一面において右予備罪を組成したものであると共に他面無免許輸出の用に供しようとしたものであると解するのが相当である。しかして、関税法第八三条第一項は刑法第一九条第一項と趣を異にし、没収の対象となる船舶を同条項所定の犯罪につきその犯罪行為の用に供したものに限定し、右のような無免許輸出の予備罪を組成した船舶や無免許輸出の用に供しようとした船舶まで没収の対象としていないことは同条項の解釈上疑を入れないところである。そうだとすると、本件第十八明石丸が右関税法第八三条第一項の没収の対象とならないことは明らかであるから、原判決が右関税法の規定を適用して右船舶を没収したのは不当に法律を適用して没収刑を科した違法があるに帰するのであつて、しかも右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決はこの点で破棄を免れない。

右の理由であるから、刑事訴訟法第三九七条、第四〇〇条但書によつて、原判決を破棄し、当審において被告事件につき更に次のとおり判決する。

原判決が確定した事実に法律を適用すると、被告人の原判示所為は関税法第七六条第二項、第一項、刑法第六〇条に該当するから定められた刑のうち懲役刑を選択し、その刑期の範囲内で被告人を懲役八月に処し、刑法第二五条によつて、この裁判が確定した日から二年間右刑の執行を猶予し、押収にかゝる主文第四項記載の物件は本件犯罪に係る貨物であつて、犯人の所有に係るものであるから、関税法第八三条第一項によつて、これを没収し、なお刑事訴訟法第一八一条第一項によつて、訴訟費用の全部を被告人に負担させることとする。

よつて、主文のとおり判決をする。

(裁判長判事 竹中義郎 判事 二見虎雄 判事 斎藤格之助)

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